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東京高等裁判所 昭和25年(う)806号 判決

被告人

佐藤幹治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

宮内、小川両弁護人の控訴趣意第一点について。

按ずるに憲法第十四条が法の下における国民平等の原則を宣明し、すべて国民が人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的、又は社会関係上差別的取扱を受けない旨を規定したのは、人権の価値がすべての人間について同等であり従つて人種、宗教、男女の性、職業、社会的身分等の差異にもとづいてあるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならないという大原則を示したものに外ならならい。しかし乍ら、このことは法が国民の基本的平等の原則の範囲内に於て各人の年令、自然的素質、職業、人と人との間の特別の関係等の各事情を考慮して、道徳、正義、合目的性等の要請より適当な具体的規定をすることを妨げるものではない。

刑法において尊属親に対する殺人、傷害致死等が一般の場合に比して、重く罰せられているのは、法が子の親に対する道徳的義務を特に重要視したものであり、これ道徳の要請に基く法による具体的規定に外ならない。而して子の親に対する道徳的義務をもしかく重要視することは、過去における家族主義乃至家長制度(延いては封建制度)の維持温存に由来するものであると論旨は主張するが、夫婦、親子、兄弟等の、関係を支配する道徳は人類普遍の道徳原理であつて、決して、封建的、反民主々義的の思想とは考えられない。さらに憲法第十四条第一項の解釈よりすれば、親子の関係は、同条項において差別待遇の理由として掲げる社会的身分その他いずれの理由にも該当しない。又同条項が国民を政治的、経済的又は、社会的関係において、原則として、平等に取り扱うべきことを規定したのは、国民の地位を主体の立場から、観念したものであり、国民がその関係する各個の法律関係において夫々の対称の差に従い、異る取り扱を受けることまでを禁止する趣旨を包含するものではないのである。

論旨は被害者が直系尊属なる場合において、特に重い法定刑を適用することを以て、尊属又は卑属であるがために、その尊重される程度に軽重の差を設けたもので、憲法第十三条に謂う「すべて国民は個人として、尊重される」、原則にも違反すると主張するけれども、立法の主眼とするころは、被害者たる尊属親を保護する点には存せずして、むしろ、加害者たる卑属の背倫理性が、特に考慮せられ、尊属親は反射的に、一層強度の、保護を受けるに至つたものと解すべきである。従つて、刑法第二百条第二項の規定は、憲法第十三条―第十四条或いは第二十四条第二項のいずれにも反することなき、合憲の法律たるを、失わぬものと解すべきであるから、原審が原判示の事実に対し、同法条を適用したのは相当であつた。

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